新品種の植物を開発した人(育成者)の権利を守るための
法律、「種苗法」。日本政府はこの法律の改正を目指している。
改正の主な目的は、日本で開発された優良品種の海外流出を
防ぐためである。また、この改正が実現された場合、
農家は、作物の育成者に許可を得なければ、自家増殖が
原則出来なくなってしまう。
作物が、品種登録の際に定められた国や地域以外に
持ち出されたり、育成者の許可なしに農家が自家増殖をした
場合には、刑事罰や損害賠償の対象となる。
日本の農業の仕組みを大きく変える可能性のある改正案
であり、農家破綻の危機も予測されている。
種苗法改定案の問題点
日本政府は「種苗法」の改正を目指し、3月3日に閣議決定をした。
2021年4月に法律の施行を予定している。
改正の目的は、日本で開発された作物の海外への流出を
防ぐことにある。年月をかけて開発された作物が、海外に
渡り産地化してしまっては、日本の農業市場にとって不利益
となってしまうという訳だ。
また、改正案に盛り込まれた重要な点として、「自家増殖
の原則禁止」が挙げられる。これは、農家の「自家増殖」と
「自家採種」の禁止を命じるものである。
「自家増殖」とは、芽の出た芋を植えることで作物を
新たに生産したり、果樹などの苗木を1本だけ買い、接ぎ木を
して生産を増やす栽培技術である。
「自家採種」とは、自分の畑で育てた作物の種を採取して、
その種を植えることで作物を生産する栽培技術である。
農家にとって、この二つの栽培技術は、効率的・経済的に
作物を生産するための重要な手段である。これらが禁止
されてしまった場合、農家は作物を生産する度に種や苗などを
企業から購入する事になり、その費用は痛手となってしまう。
また、育成者から自家増殖の許可を得るにしても手数料が
かかるに違いない。
多くの農家は、家族や個人で農場を経営していることが多く、
その経費は大きな負担になるはずだ。
政府は、国内農産物の大半が品種登録のされていない
一般品種であるため、種苗法が改正されても農家は
自家増殖を制限されないと主張している。
しかし現実には、農水省は自家増殖を禁止する作物を
増やしており、2016年には82種目だったのが、2019年
には372種目となっている。
また、地域の伝統品種である在来種は一般品種であるため
自家増殖を続けることは可能であると政府は説明しているが、
実際には伝統的な「えごま」の2種が既に登録品種に
なるなど、政府の主張と実態は異なっている。
農業破綻の危機
現在日本で栽培されている農作物のうち90%が交配によって
作られたF1種である。海外の多国籍企業であるモンサント
などが生産するこの種は、一代限りのため農家は
自家増殖をすることができない。
日本の農作物は、海外の種なしでは成り立たなくなって
しまっているのが現実だ。また、後期高齢化社会で農家の
後継者も減少する一方である。
このような状況で、種苗法の改定が行われてしまった場合、
ただでさえ少ない農家は、負担の増加によって農業を
続けて行くことが難しくなってしまうだろう。
また、長年の農業技術や知恵で培われてきた農作物が、
その土地から消えていってしまうかも知れない。一度伝統が
途絶えてしまったら、農業の破綻につながってしまうだろう。
また、今回の種苗法改定の問題点として、多くの農家が
この法律を知らないという事実が挙げられる。そして、現在
の報道は新型コロナウイルス一点で、メディアもあまり報道を
していない。
まとめ
新品種の農作物を開発した人の権利を強化するための
種苗法改定案の施行が目指されている。
一方で、農家は自家増殖の制限をかけられてしまう。
自家増殖を行うには、農作物の開発者の許可が必要で、
その際の費用が農家の負担となる事が予想される。
農作物の登録種目は年々増え続けており、長年行われてきた
伝統的な栽培技術によって生み出された作物らその土地から
なくなってしまう恐れがある。
種苗法改定の内容自体を知らない農家も多く存在していて、
情報が十分に行き渡っているとはいえない状況だ。
現在の日本は、農作物の大半を海外の種に頼っており、
また、農家の後継者も少なくなっているなかで、この法案は
日本の農業を破綻させてしまう可能性がある。
・自家採取ができないと在来種や固定種が失われてしまう
・今まで自家採種して種苗にかかるコストを削減していたが毎回種を買わないといけなくなる